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犬と上手につきあう方法


*** わが家の犬もこれで大丈夫!? ***


①最初の犬たち
②近代の犬たち
③エキスパートドッグとわれらが愛犬
④犬を理解するための基礎知識
⑤ちょっとチェックしてください
⑥なぜ言うことを聞く犬にならないか
⑦各論です
⑧おわりに

Script By
Toshio Mikoshiba (Veterinarian)

MIKOSHIBA ANIMAL HOSPITAL
3-27-4
Matsumoto Cho
Kanagawa Ward
Yokohama City
Kanagawa Prefecture


一番上に戻ります。 ①最初の犬たち

 古代より、私たちと生活をともにし、常に傍らに存在してきた犬たち。

 大まかに言えば、少なくとも1万年以上も前に(古代エジプトで)犬を自分たちに有用として認め、飼育した人間たちがいたことが知られています。

 考古学者は、犬の祖先の祖先を、約4万5千年もの昔(始新世から漸新世に移り変わる頃)にまでさかのぼって発見しています。

現在、その系統図は

ミアキス(ジャコウ猫に似た小型の肉食動物)→クズリ様動物(熊に似ている)
 ↓
キノディクティス(漸新期後期)
 ↓
(中新世後半)→ハンティングドッグ(リカオン、ドール)
 ↓→キノディスムス(ハイエナに似るが現在は絶滅)
(中新世前期)
 ↓
トマークトゥス(側枝として進化)
 ↓
子孫 = オオカミ、キツネ、イヌの元になった動物

と考えられています。

 なぜ、犬(オオカミ?)が人間のそばで暮らし始めたのかは、だれも見たことがないために正確なことは不明です。しかし、ある時、人は犬とつきあい始め、犬を使って何かができないものかと考えたのでしょう。

 実際、人間は、常に従順で能力的に優秀な個体を選別をしながら、自分たちにとって都合の良い(必要としている)能力を強く持っている個体を集め、そうでないものを淘汰しながら、自らの生活の役に立たせるべく改良を行ってきました。

 つまり犬は、その当時からずっと、現在の家畜になされるのと同じような、品種改良が行われてきたことになります。

最初の犬、それはきっと

猟犬(獲物を追いだし、追いつめる犬)であり、

番犬(不審者の侵入に対して警戒の声を出す犬)であったでしょう。

 人間が狩猟を主な生活手段としていた頃から、人と犬は協力しあって狩りを行い、野営をしながらともにくらしました。この当時の犬は主として狩りにおいてその能力を発揮していたわけです。

いわゆる

ハンティングドッグ = ハウンドドッグ(獣猟犬)

(ガンドッグ)     バードドッグ (鳥猟犬)

などの始まりです。

 やがて農業が始まり、生活の場所を固定することにした人々とともに、犬は人間の家(生活物資や食料および家畜)を野獣や他の(部族の)人間から守り、あるいはたくさんの力仕事(荷車引き、橇引き)にも力を貸してきました。

それが、

ワーキングドッグ = ウォッチドッグ  (番犬)

ハーディングドッグ(護羊犬)

シープ・ドッグ  (牧羊犬)

キャトル・ドッグ (家畜追い犬)

スレッジドッグ  (橇犬)

テリア      (鼠取り犬)

などの誕生でした。

 時がたち、労働力としてのみに能力開発が偏っていた犬の改良も、愛玩犬というジャンルの登場で新しい一面を迎えることになりました。

 愛玩犬は、小さな骨格とそれにともなって小さな頭や歯、大きな(バランス的にそう見える)目や耳などといった未成熟(子どもっぽい)な犬の特徴をもち、さらにその犬が大人になっても、幼若期の行動そのままの特徴を維持するという、ペットとしていつまでも手の掛かる“幼な子”を要求する飼い主の好みにそって作り出された、品種改良の成果の権化のような犬種です。

 子どもの頃の特徴そのままに大人になる犬。いわゆる「幼形成熟」に美的感覚を加味して、積極的な繁殖・改良が行われました。

その結果として、生まれてきた犬種は、今日多くの家庭で見ることのできる

 トーイドッグ(超小型犬、抱き犬、膝犬、袖犬など)です。

 このことが一般化し、犬の世界は新しい方向に向けてさらに発展することになってきました。

 しかし、この時期の犬たちは実際はとても不安定な立場にあり、飼い主たる人間が今後もその犬を飼育し続けるか(餌をやるか)否かはその犬の従順さや労働能力に関わる問題であり、役に立たない犬はもはや犬(大事な家畜)として扱われることはありませんでした。

ここで大事なことは、犬という動物は、一般の野生動物と違って、最初から独自に発生・進化してきたものではなく、初期の段階から人間の手の入った(人間が必要に応じて作り出してきた)動物=家畜であるということです。
そして、現在の犬の持っている様々な卓越した能力もまた、古代から人々によって延々と続けられてきた能力の選択と繁殖による努力の結果なのです。つまり、今日も家にいるあの犬たちの体には、過去からずっと何世代もわたって開発され続けてきた数多くの能力が、ぎっしり詰まった血液が流れていて、いつでも飼い主の“必要”を待っているのです。
犬は過去のいつの時代においても彼らの能力を必要とし、積極的に活用しよう(使いこなそう)とする人間のみによって利用されてきました。


一番上に戻ります。 ②近代の犬たち

 太古の昔から私たちの狩りを助け、家畜や家を、そして人をまもってきた犬たちは、長い長い時の流れを経て、次第にその存在意義に変化を余儀なくされてきました。

 それは、人の生活における基礎的な部分(狩り、まもる)を支えてきた強力で有能な道具(家畜)として活躍するという役割から・・・家族を構成する一匹(頭)の構成員として人間の生活に深く関わることで(飼い主たる)私たちにとてつもなく大きな幸福感や、この上もない安心感や満足感を提供する・・・ということへの変化であり、近代の社会においては特に彼らを飼育することで得られるものの価値や重要さが再認識されてきています。

 時が経ち、私たちは(その是非はともかくとして)全宇宙的に見てもたぐい希なる能力を発揮し、自然(植物や家畜の品種改良等)や環境(倉庫や冷凍設備の開発)さえも変化させ、それらをコントロールすることで、食料を得る手段やそれを貯蔵する能力に卓越し、隣人等に対する安全保障も、建築物の改良や保安組織の設立など各方面にわたって飛躍的に充実させてきており、必ずしも犬の助けを借りなくても十分な(あるいはすでに犬の能力では全く太刀打ちできないような)環境を手に入れてきています。

 では、もう犬は人間の生活に必要がなくなってしまったのかと言えば、決してそうではなく、現代の犬はそれまでとはまた違った意味で重要な仕事を担うことになってきているのです。つまり、それまでの(単に物をまもり、餌を狩るための、そして他人に見せびらかす装飾のための)道具としての立場から、人間の生活に精神的な安らぎをもたらすことのできる生活要素として、メンタルな部分が重要視される方向へと変化を見せ始めたのです。

 犬はそれまでの使ってなんぼや、見せて幾らといった即物的な問題(その日の獲物の量や優越感)を担う(飼い主を満足させる)媒体としてよりも(もちろん現在でもそのために犬を飼い、繁殖する人はたくさん居るのですが・・・)、犬という動物が一軒の家の中に居るだけで、我々が日常の生活においてどれだけ積極的で、明るく振る舞うことができるか、そして、彼らが存在することで我々がどれだけ安らげるか、精神的な安定がえられるかということが重要な存在意義となってきているのです。ちょうど古代において彼ら犬が狩ることのできる獲物の大きさによってその能力が決められたように。


一番上に戻ります。 ③エキスパートドッグとわれらが愛犬:どこが違うか

 人間とともに様々な環境変化を乗り越えてきた我らが相棒たる犬。状況は変わっても現在の社会の中で今日もたくさんの犬が活躍をしています。

警察犬、麻薬捜査犬、軍用犬

山岳救助犬、水難救助犬、災害者捜索犬

番犬、護衛犬、監視犬

牧羊犬、猟犬、

運搬犬、回収犬

闘犬、競争犬、

盲導犬、聴導犬、介護犬

そして 最後にわれらが「家庭犬」であります。

 各種の専門分野において、その仕事を超人的にこなす“エキスパートドッグ”は、一見私たち愛犬家にとっては手の届きそうにもない特別な犬たちにも感じられます。しかし、実際はこの有能な犬たちの能力はその能力を必要とした人々(飼い主)によって開発(訓練)されたことで、はじめて発揮されたものなのです。つまり、有能な犬というのは最初からそうだったわけではなく、犬が生まれつき本質的に持っていた本能や行動パターンを利用して、それに人間が手(訓練)を入れることで、作り出したものなのです。

 つまり、生まれついての名犬というものがいるわけではなく、どんなに潜在的な能力が優れている犬を手に入れることができても、私たち(飼い主)が犬のこと(本能や行動的なパターンなど)を積極的に学んで理解をし、手を入れる(しつけをする)ことをしなければ全く宝の持ち腐れ(言うことを聞かない犬)になってしまうわけです。

 実際、犬たちが持っている本来の本能や行動のパターンなどは、得意不得意は別として、極端に特殊な用途に供するために専門に選択育種された一部の種類(一般には必要のない能力を持った犬)にみられるような特別の能力が固定されている種類を除けばおおむね年齢や性別に関係なく、すべての犬に生まれつき平等に備わっています。

 このことは、盲人の世話をする献身的な盲導犬や、カバンの中の麻薬を捜し当てる麻薬捜査犬たちと、わが家の愛犬はその能力の未開発な部分において基本的な条件は同一であると考えることができます。












ということは・・・

私たちの家の犬も

基本的にはスーパードッグと変わらない!?

ということがわかったところで、さあ、ここからが本題です。

「言うことを聞く犬」を手に入れるには、どうしたらよいのでしょうか??


一番上に戻ります。 ④犬を理解するための基礎知識:飼い主が知っていないといけないお約束

1.リーダーの必要性

 犬は、私たちと同じように「家族制社会」を構成する動物です。

 「家族」には、父親がいて、母親がいて、子どもたちがいて、さらにおじさんやおばさんあるいは新しい仲間(お嫁さんやきっかけがわからないけれど一緒に暮らすようになったお兄さんとか)が家族(群:パックと言います。)を構成して、ちょうど私たちの家族と同じようにように暮らします。

 これは重要なことで、常に一頭だけで暮らす猫のような動物の場合は、相談しなければならない相手が自分一人なため、その場でいろいろなことを決め、それに沿って行動をすればよいのですが、犬のように家族や仲間が一緒に暮らそうとする場合は(私たち人間の生活を例に取るまでもなく)それぞれが勝手なことを考え、ばらばらに行動をしていたのではまとまりがなくてやっていけません。

 そこで、犬はよりまとまり(秩序)のある生活を手に入れるために、自らの生活体系を階級化し、群のリーダーとそれに従うメンバーといった階層をもつことで彼らの生活の安定を保つことに成功してきました。犬は社会生活を営むことで生活の秩序を手に入れた数少ない動物の1例なのです。

 注意しなければいけないのは、群を統率するリーダーになれるのは、たった1名であるということと、それぞれの犬には自分がその群のリーダーになろうとする気持ちが潜在的に存在するということです。

 もしも、リーダーが倒れたときは2番目のリーダーが、その群を統率する地位と権利を得ることになります。

 したがって、もしも私たちが首尾良く彼らのリーダーとして君臨することに成功することができず、不幸にも彼らにリーダーの地位を譲り渡してしまったような場合には、よほどのことがない限り、リーダー(犬)は私たちにその地位を明け渡してくれたりはしないでしょう。

2.縄張り

 この「群」という性格を持った生活体系は、縄張りという生活空間の確保に向けてかなり情熱的に固執する集団を作るようになりました。

 縄張りを確保するということは、自分を含めた家族が安心して暮らせることと充分な量の餌が捕れるということを満足させてくれます。

 動物は縄張りを主張し、それをお互いに尊重し合います。自分の縄張りの中では、外に出ている場合と比べて、動物は圧倒的に自信にあふれ、活動的(攻撃的)になります。

 反対に同じ動物が、他人の縄張りに入ってしまった場合、それまでの元気はどこかに吹き飛んでしまい、すごすごと引き返すことになるわけです。

 実際、既にその場所を所有しているかどうかが(90%の確率で)相手に対して優位かどうかの関係を決定するという報告があります。

 つまり、縄張の存在は、動物が不必要な闘争や混乱なしに、各々が平和に暮らすことができるという良好なバランスを確立することが出来るわけです。

 人と犬の関係で考えると、リーダーは人間ですから、飼い主たる人間が確保している縄張りが、同時に従者たる犬の縄張りということになります。一般にそれは飼い主の住居です。

 もしも、この縄張りの中で、「犬が飼い主の言うことを聞かない」ということが生じた場合、それは縄張りの責任者(リーダー)が飼い主ではなく、犬自身だということを彼らが主張しているということが言えます。

 前述したように、縄張りの中では動物は(もちろん人もですが)強気になります。他人が侵入すると大声でわめきたて、追い出そうとします。ただし、犬の世界には代理戦争はありません。群の主人が自分で直接出ていって相手を退散させるわけです。この場合、主従の立場が逆転していると、本来、従者たる立場であるべき我が家の愛犬が、自分で来客に向かって退散を要求してしまうことになるわけです。

今、お宅の犬は、家の中で一番我が物顔で暮らしていませんか?

3.個体距離

 犬は、たくさんの種類が存在しますので、いろいろな特徴を持った種類がいます。同じ場所にたくさんの仲間と生活することができる種類と、他の個体(犬)の存在を、少しも認めたくない種類というのがあります。これは「個体距離」と言って、ある一定の距離の円の中に他人(犬)が踏み込むとひどく不快に感じ、不機嫌になったり攻撃的になるという状態です。この距離の多少については種類や個体的に差があり注意が必要な場合があります。

4.犬はだまされませんゾ!!

 私たちは、日頃何気なく犬と接しています。機嫌の良い日もあれば、どうかすれば、むしゃくしゃしている日もあります。犬たちは、この私たちのちょっとした感情の差をきわめて敏感に感じ取ります。仕事で、ちょっと気になることがあって帰宅した自分が、どことなく態度のおかしい犬を見て、自分が仕事のストレスを家に持って帰ってしまった、ということを気づかされてしまうということさえあります。犬は、飼い主のちょっと変な素振りや声の調子にものすごく敏感なのです。

 こんな例があります。おなかを壊している犬に、私たちが下痢止めを処方したときのことです。飼い主さんからの連絡によると、「犬が、餌の皿の前に座って、震えながら、困っているように見える。」とのこと。よく聞いてみると、飼い主さんは、自分が餌の中に入れた薬を犬がちゃんと飲み込むかどうかが気になって、餌の前に(犬と対面して)しゃがみ込んで見張っていたというわけです。犬が不安を感じて、食事に口を付けられなかったのは無理もありません。

 もちろん、本当は餌の時間には、飼い主さんはちゃんとその場にいて、その日の餌の食べっぷりや、便のかたち、毛づやの善し悪し、その他、体に異常がないかどうかを観察するべきです。いつもそうであれば犬が不安に感じることはなかったずですが、いつもと違う態度に犬は敏感にも気がついてしまったわけです。

 ご主人の“餌に薬を(黙って)入れてある”という後ろめたい気持ちや“ちゃんと食べますように(もし、薬が見つかってしまったらどうしよう)”という自信のない態度や、“見張っているぞ”という時の目の配りは、直ぐに犬に読み取られてしまいます。

5.感情の現し方について

犬は、

喜びます、鳴きます、吠えます、嗅ぎます、調べます、唸ります、咬みます、甘えます、笑います、怒ります、興奮します、恐がります、緊張します、人を試します、退屈もします、嘘もつきます、寂しがりです、嫉妬もします。

 そして、頭と尻尾にその全部の感情が出てしまいます。

 犬の感情は、体の動きの中にほとんど表現されています。よく観察すると犬の言いたいことはほとんど判るはずです。じっくり観察して理解してあげてください。

 時には、犬が本当に言いたかったこととは全く違った解釈をしてしまい、間違った対応をしてしまっているにも関わらず、自分の解釈と対応に何の疑いも持たなかったために、重大な問題を引き起こしてしまう場合もあります。

 例えば、私たちが食事を始めると、ほとんどの犬は、その食卓の周りにやってきます。これは、それまで仲良く遊んでいたのに、突然私たちが彼らを置き去りにして食卓に着いてしまい、食事を始めたことに対して困惑した犬が様子を見に来たわけです。

 ところが、多くの飼い主には、それがお腹を空かせた(可哀想な)犬に見えてしまうわけです。ちゃんと専用の食器に彼らの食事が用意してあるにも関わらず、どうしても自分の食餌の一部を分けてあげたい、という気持ちに駆られて、ほんのちょっと・・・・

 犬の側からすれば、ただ様子を見に行っただけなのに餌がもらえてしまったわけですから、ありがたいやらうれしいやら。しかも、次の日から毎日同じことがおこるわけで、まして(犬の世界ではリーダーが食事が終わるまで、メンバーは待たされることさえあるのに)リーダーが自らの取り分であるはずの餌を分けてくれるのですから、なんだか逆に自分がリーダーになってしまったような気分で、もうおかしくってドッグフードなんか食べていられないわけです。

 やはり、人の食べるものをあげてはいけません!!。

6.調教と教育とは本質的に違う

 かなり古い犬のしつけの本などを見ると、多くの問題行動の矯正には当たり前のように強制や暴力が用いられていたようです。犬たちは問題を解決されたというよりは、問題を起こしたときの体罰を恐れて問題行動を止めて(我慢して)いたに過ぎず、本質的には全く何の改善も得られず、新たな問題行動が代償的に現れてくるに過ぎませんでした。

 計算の出来ない子どもに怒りの鉄拳をふるっても、気持ちが萎縮するばかりで、計算の理屈を理解できたり計算の早さが向上することは決してありません。犬も同じように(特別な場合をのぞけば)体罰や叱責によってある種の行動パターンを無理に押しつけても、結局長い目で見れば何の意味もありません。

 言うことを聞く犬の動作や態度は、サーカスのトラやライオンが鞭におびえて芸をするのとは本質的に違いますから、恐怖心で飼い主の言うことを嫌々聞いているのではあまりにも悲劇的です。

「犬を訓練所に入れると、言うことを聞かない犬は、ムチで叩かれて教えられるらしい。」とか「悪いことをした犬は、足蹴にして悲鳴を上げて腹を出すまで蹴飛ばせ!」

 などということをこの都会でさえも多くの人々が信じていた時代もありました。

 しかし、これは誤った認識であり、とんでもない時代遅れの感覚です。

 前述しましたように犬は群で生活し、リーダーを信頼し、ほぼ無条件で従います。群の構成員である犬はリーダーたる人間のご機嫌が大変気になります。たとえ犬であっても直属の上司(飼い主)のご機嫌はいい方が良いに決まっています。

 反対にその信頼するリーダー(飼い主)が、自分を無視するようなことがあると不安になったメンバーはとても寂しい思いをします。ご機嫌が良くて優しく撫でてくれる飼い主と不機嫌で無視する飼い主と、犬はこのどちらを好むか・・・・それがわかればいちいちムチや足を使って犬をぶっ飛ばす必要がないことは明かです。

 近年の犬のしつけ方は(非常に高等な訓練だけでなく初歩のしつけだけにおいても)決して強制的なものではなく、むしろ「褒める」ことや「励ます」ことで犬本人の服従の自覚を促し、それを習慣づける方向で解説されていますし、そのように実施されています。


一番上に戻ります。 ⑤ちょっとチェックしてみてください

例えば

うちの犬は
・指示を出したときに従順でない
・トイレのしつけが大変だった、あるいは難しかった
・興奮しやすい                    (訓練のしやすさ)

うちの犬は
・指示にそむき、飼い主を威嚇することがある
・他の犬に逢うとすぐに背中に乗ろうとする
・物音がすると吠える
・来客に対して攻撃的である
・嫌なことをされるとかみつこうとする            (服従性)

うちの犬は
・他人がダメ!。
・知らない人が来ると受け付けない
・さわられたり撫でられたりするのを好まない
・子どもを好まない                 (人間との社交性)

うちの犬は
・知らない犬を見ると恐がる
・神経質である
・犬とは遊ばない                   (犬との社交性)

うちの犬は
・物を壊す
・不安になったり興奮すると吠える
・鼻を鳴らして注意を引こうとする
・運動や散歩を要求する                   (活動性)

 お宅の犬は、こんな犬ではありませんか?

 もしも、該当する項目があったら、無関心に放置しておくと、あとでとんでもない苦労を背負い込むことになってしまうかも知れませんよ?!。


一番上に戻ります。 ⑥なぜ言うことを聞く犬にならないか:問題(行動)を考えます。

 言うことを聞く犬。もしも自分の家の犬がそうであればなにも考える必要がないわけですから、考えなければいけないのは「言うことを聞かない犬」つまり問題を抱えた犬を考えることにします。このような話をするときに決まって出てくる言葉に「問題行動」というものがあります。問題行動というと、言葉が堅くなりますが、例えば、呼んでも来ない犬がいたとします。犬は呼んでも来ないわけですからその "来ない" という動作(行動)が問題ですから、つまりそれは「問題行動」なのです。一緒に歩けない、お座りをしない、鳴き止まない。すべて「問題行動」です。

では、その "呼んでも来ない" という事柄があっても、そのことを飼い主さんが困っていない場合にはどうなのかということになります。これは狭い意味では問題行動ではありません。その家の中ではなにも問題がない(呼んでも来ないだけだ)という場合には問題が存在しないということが言えるからです。

でも、ひとたび他の犬や人が絡んできた場合には状況が変わります。例えば公園に行ってたまたま引き綱が離れてしまって犬が遠くに行ってしまった。他の犬とけんかをしてしまうかもしれないし、交通事故にあってしまうかもしれません。そのような場合、呼んでも手元に呼び戻すことができないという事象は(そのことを本当に飼い主さんが困っていないとしても)他の犬やその飼い主さん、通りかかるかもしれない自動車の運転手さんからすれば明らかに「問題行動」なわけです。つまり、広い意味ではきちんとしつけが行われていない犬の身勝手な行動は他の犬や人に迷惑をかけるという意味で「問題行動」であるわけです。

 このこと(言うことを聞かない犬)を考える場合、直接の当事者は私たち人間(飼い主)と犬ですから、うまく行かない理由があるとすればこのどちらか(あるいは両方)にあるということになります。

1.飼い主側の問題

 私たちが、毎日の診療の中で、「困った!」として相談を受ける場合。それは、飼い主さんがすでに問題を深刻に感じて解決を望んでおり、かつその解決にご自分たちも積極的な場合です。これは「深刻な問題」をすでにお持ちの場合です。(この場合、問題だとされた行動が実際に重要な問題であるかということと、飼い主さんがどれだけ困っているかとの間には、あまり相関がありません)

 一方、飼い主さんはもちろんご自分の犬の問題の存在に気がついて困ってはいるのですが、切羽詰まった深刻な問題だという自覚がないために、積極的に解決する努力をされていないという場合もあります。これが「放置されている問題」を抱えている場合です。

 もしも、飼い主さんが「深刻な問題」を抱えて、私たち獣医師や訓練士の元に相談にきてくれた場合は、私たちは充分その問題の内容を検討した上で、解決の手段を一緒に考えることができると思います。さらに、解決策をお話しして理解してもらうことも、具体的に犬にどう接するかを目で見てもらうこともできるでしょうし、もっと積極的な訓練あるいは矯正の手段が必要な場合は、それを紹介することもできるでしょう。この場合、問題の解決に向けて、将来は明るいはずです。

2.犬に問題がある場合

 きわめて希ではありますが、犬を飼って、さあこれからの将来に向けて大変希望に満ちた機会を手に入れた筈であるにもかかわらず、残念ながら新しく仲間に加えた犬そのものに何らかの(精神的な)問題があって正常な発育が望めない場合もあります。

 成長期の子犬には、精神的に傷つき易い時期が2度あり、そのときの経験如何では、その後の子犬の気質に大きな影響が出てしまうことがあります。

 最初の時期は、生後数週間とくに6〜12週齢のときであり、その間に、人に出来るだけ接し、周囲のあらゆる事柄を経験する必要があります。この時期の体験が乏しければ、人になつきにくい、しつけのしにくい犬になってしまうかも知れません。あるいはこの時期に他の犬に接触した経験がなければ、犬のことを嫌いになってしまうこともあります。この時期を社会化期といいます。

 次の時期は、およそ3ヶ月(12週齢)から5ヶ月齢(20週齢)くらいまで続く学習という時期です。この時期に不幸にも多くを学べなかった犬は、時として心が閉ざされてしまうことがあります。

 さらに、この5ヶ月齢をこえる頃、子犬は場所学習期という時期を迎え、環境の変化を嫌い(恐がり)ます。なじみのない音や物に対して神経質な反応を示す時期であり、この時期に経験したことを基礎にして、新しい刺激に対してその恐怖に立ち向かうことが出来るようになります。

 したがって、子犬を手に入れるのに最も適した時期は、遅くなりすぎない方が良く、他の様々な事象から、生後6〜8週齢の時期が最も適した時期であろうと考えられます。

 もちろん、それ以前に子犬を手に入れるということに関しては、子犬が成長し、一人前の犬として活躍するために必要な、様々な能力の開発(親に面倒を見てもらうことと兄弟たちとの遊び)が、年齢的にも時間的にも不足してしまうということを根拠に、「全く論外」だと言い切ることができます。特に、最近のペットブームにおいてペットショップの店頭であまりにも幼い子犬が販売されているのを見かけるのは残念です。


一番上に戻ります。 ⑦各論です

問題−1
 ボールを投げてやると急いで取りに行くので、口にくわえて持ってこさせて運動させようとしたところ、なかなか自分のところまで持ってこないので、ボールを口にくわえさせてぐいぐい押しつけて教えたら、ボールを見ると逃げていってしまうようになった。
{犬も楽しく遊びたいです。無理矢理ボールを押しつけられても嫌いになってしまうだけです。}
{基本的には褒めて育てること − 少しでも出来たことを褒めてあげましょう}

問題−2
 決まった場所でオシッコをしないのでジャーッと出ているときに、後ろから棒状に巻いた新聞紙で叩いたら、それっきりオシッコそのものををしなくなってしまった。
{しつけなくてはいけないのはオシッコの場所です。オシッコそのものをすることがいけないわけではありません。}
{叱るときにはタイミング良く怒らないと逆効果になりかねません}

問題−3
 命令で手元に来る練習をしていたところ、なかなかうまく行かないので自分でも不機嫌になってしまい、せっかく足元にきた犬を蹴飛ばしてしまった。それからは呼んでも不安そうな顔をしているだけで寄ってこなくなってしまった。
{叱るときにはタイミング良く怒らないと逆効果になりかねない}
{基本的には褒めて育てること−少しでも出来たことを褒めてあげましょう}

問題−4
 悪いことをした時に、おかあさんが大きな声で犬を叱ると、すぐにおばあちゃんやおとうさんが抱き上げて撫でたり、散歩に連れていったり、お菓子をあげてごきげんをとってしまう。
{叱った後は、しばらく皆で無視しましょう。これを徹底しないと、犬の方では悪いことをしたのに褒められたのだと勘違いしてしまいます}

問題−5
 散歩の時、引き綱をガンガンひっぱって歩く。みちくさばかりくっていてちっとも前に進まない。右に左に勝手気ままに歩き回る。子どもが散歩に行くと引っ張り回してあぶない。
{主従関係を確立することが大事}
{散歩に出かけるときには、お座りをさせてから、引き綱をつける。飼い主が先に門を出る。必ず、帰りも先に飼い主さんが門をくぐる}

問題−6
 おとうさんが「すわれ!」というとすぐに座るくせに、私が散歩に連れていって、座ったり待ったりして欲しいときに、いろいろ言葉でお願いしても全然知らん顔をしている。私が悪いことを止めさせようと紐を引っ張っても無視しているくせに、おとうさんの「コラッ!!」の声がすると、縮こまって震えてしまう。
{言葉は短く、家族で統一して使いましょう。もちろん犬にわかりやすい言葉で}

問題−7
 あまりわんわん鳴くので、叱ろうと思って犬小屋に行くと、けろっとして尻尾を振って喜んでいる。それなのに、家の中に入るとすぐにまた吠え始める。こんなことが数週間も続いていて、近所から苦情がきてしまった。
{鳴いたり、吠えたりするからといって、犬のところに行きなだめると、犬の方では鳴けば直ぐ飼い主さんが来てくれるという学習をする}

問題−8
 一緒に遊んでいると、子犬の歯が手や腕に当たって痛い!あわてて手を引っ込めるとおもしろがってよけい咬んでくる。頭にきたので、私も子犬の首根っこを掴んで大声で叱りつけてやった。強く掴んだわけではないが、子犬はとっても驚いた様子で、それ以来、子犬の私を見る目が尊敬のまなざしに変わったような気がする。
{遊びの中で、知らないうちに“犬より上位であること”を覚えさせる}

問題−9
 野球のボールが好きで、散歩の時に持っていくといつもしつこいくらい欲しがるので、家にいるときに犬が自分で遊べばよいと思って犬に渡しておいても、ほんの1〜2分もすると飽きてしまい、置きっぱなしになってしまう。
{遊びの始まりと終りは、必ず人間(リーダー)側から行うこと}
{遊びに使う道具は終わった後で必ず回収すること}

問題−10
 トイレのしつけがうまく行かないので、本に書いてあったようにオシッコをしてしまった床に犬の鼻を押しつけて、大きな声で叱ってみたけれど、私のことを見る目が疑い深そうになっただけでちっとも解決しない。
{排便、排尿のしつけは所定のところで出来たときに(出来れば家の中が望ましい)褒めてあげるということを繰り返す}

各論の詳細に関しては「困ったさんの退治の仕方:犬編」を参照してください。


一番上に戻ります。 ⑧おわりに

 「言うことを聞かない犬」というのは実際のところ、飼い主さんが自分の犬と長くつきあっているうちに、知らず知らずの間に問題(行動)を引き起こす原因を作ってしまっていることが多いのです。もちろん飼い主さんは、この(犬が自分の言うことを聞かないという)問題について困ってはいますし、対策を考えたことや実際に何か解決策を試みられたこともあるでしょう。しかし、ほとんどの場合それらの問題は解決されないまま放置され(あきらめられ)ています。このようなことが起こる最大の原因は、飼い主の犬に関する知識の不足と扱い方の不手際から、双方のあいだに本来あるべき“主従”の関係が成立しなかったり反対に逆転してしまっていたり、知らず知らずのあいだに犬に間違った習慣を覚えさせてしまったということなのです。

  例えば、買ってきたばかりの子犬が飼い主の手にじゃれついて遊ぶ姿に、私たちはつい可愛いと思うあまり、指や手を使って遊んであげてしまいます。このことは実は飼い主がまだ気づいていない最初の間違いの1つです。

 私たちは、犬を必要以上に興奮させてはいけません。あまりに興奮が続くとついには強く手や指を咬むことがあります。このときにきちんと「強く咬むことがいけないこと」であると子犬に伝えられればよいのですが、びっくりして手を引っ込めたり、悲鳴をあげたりするだけで、その行為に対して何ら手段を講じないままにしてしまいますと、しまいには私たち手を遊びの道具(獲物)と認識して、ことあるごとに手や指を狙って(狩りをしに)来るようになります。

 この段階でリーダーたる人間は単なる遊びの道具と成り下がってしまいますので、犬に言うことを聞かすことなどできるようになる筈がありません。

 にもかかわらず、こういう状態の犬の飼い主さんは、「犬が自分の手を咬んで困る」という相談のために病院へきているときでさえも、しょっちゅう犬の口の前で指や手をぶらぶらさせて(犬の気持ちをなだめているつもりで)興奮させているのです。今日もまた無意識な内に、犬の口の中でべちゃべちゃになってしまうご主人(?)の手なのであります。

 このことは、犬に様々な困った問題を生じさせるという意味で大変重要な問題です。こんなことが長く続くと本当に犬たちは飼い主を見下してしまい、将来もっと重大な問題が発生してくることが心配されます。こんなことになる前に、問題の本質を飼い主さんたちによく認識していただいて、犬に関する知識や扱い方の手際を正しく理解し、上手に活用していただくことで、多くの問題の発生の予防と解決が可能であろうと確信しています。

いくつかの問題行動に関する考え方と対応の仕方については「困ったさんの退治の仕方:犬編」を参照してください。


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